余談 ・・・ 「 日本の速記法は世界一かもしれない 」


 余談ですが、「 日本の速記法は世界一かもしれない 」 とさえ私は思ってい ます。

 もちろん、例えば 「 欧米の速記法 」 と比較した場合、その前提となる言語 自体が全くと言ってよいほどに異なりますので、比較すること自体に無理もあれ ば、さしたる意味もないとも言えるのかもしれません。

 しかしながら、日本語というのは、その言語体系や文字体系にあっても複雑で 歴史が長く、人類の言語、文字文化の中にあっても 「 最高度の位置の一つに鎮 座しているのではないか 」 とさえ私は思っています。

 そんな日本語を書くための日本の速記法はまた、欧米を中心とする諸外国の速 記法と比較しても、決して見劣りしないどころか、「 さまざまな方式 ( ≒ 流 派 ) のバリエーション 」 といい、「 日本語の性質、特質等を深く考慮し、 巧みに生かした上での極めて高度な速記法体系 」 といい、また、「 速記法体 系における各種法則の理論と現実味を兼ね備えた展開 」 といい、日本以上に長 い歴史のある諸外国の速記法の存在の前にあっても異彩を放っているはずではな いかと。

 とにもかくにも、日本の速記法は高度に発展し、洗練化されています。


 今回、「 田鎖綱紀 」 氏から始まるところの 「 田鎖式速記法 」 を中心に いろいろと述べてはおりますが、さらにまた、この 「 田鎖式速記法 」 を日本 の速記法の 「 大きな潮流 」、偉大なる 「 両雄 」 の片方の 「 雄 」 とす るならば、偉大なるもう一方の 「 雄 」 であるに違いないのが 「 中根式速記 法 」 であることは間違いのない事実であろうと私は考えます。

 それほどまでに、「 日本の数多くの速記法に多大なる影響を与え、栄養素を 与えた 」 のが中根式なのですね。

 「 両雄 」 の片方に鎮座するにふさわしいだけの 「 オリジナリティ 」 を 有し、その 「 オリジナリティ 」 は 「 極めて有効で絶妙な理論的法則のオン パレード 」 でもあります。

 「 論理的な構成 」 を持つ上に、「 多大な実績を有する 」 速記法でもあり ます。

 まさに 「 我が日本の誇り 」 とも言うべきものが中根式なのです。

 現代でも行われている日本語速記法の 「 すべて 」 と言ってよい速記法には、 この中根式の 「 インツクキ法 」 の考え方が少なからずその法則に含有されて います。

 日本語速記の祖 「 田鎖式速記法 」以来、登場した当初は当然ながら 「 新 参者 」 でもあった中根式ではありましたが、今や 「 日本語速記理論の要の一 翼 」 を編み出した 「 本家本元 」 でもあるのです。
 

 さて、また話は変わりますが、その他にも、特に通信教育などでも有名で知る 人も多い 「 早稲田式速記法 」 の存在があります。

 それまでの 「 田鎖式 〜 ガントレット式 〜 熊崎式 〜 中根式 〜 」 等々 といった速記法の流れ、遺産を、「 非常に吟味された形 」 で整理し、「 オリ ジナリティ 」 をも加え、「 現実的にも安全、確実な方式として十分に実験、 検討、検証がなされた形 」 で、いわば 「 それまでの速記法の総決算たる形の 一つとして登場した 」 と言ってもよいのが早稲田式ではないでしょうか。


 さらには、数多くある日本の速記方式の中に、「 衆議院式 」 と 「 参議院 式 」 の存在があります。

 「 国会の会議録を記録する 」 という目的を中心として、「 大正時代に始ま った国立の養成機関で教授されてきた方式 」 ですね。

 両式ともに、その養成機関であった 「 衆議院速記者養成所 」 「 参議院速 記者養成所 」 のいずれもが現在では閉鎖され、両方式とも教授されなくなって しまいましたが、もとは同じ 「 田鎖式 」 の系統から出発したものであるとい う意味では 「 兄弟方式 」 とも言えそうではあります。

 しかしながら、その後、時代とともに成長、進化していった両式それぞれの形 は、速記文字の一つ一つにあっても、また、速記理論や法則運用にあっても、随 分と様相が異なる点が、また興味深くもあります。


 さらに、以上、ここまで書いてきた速記方式と比較すれば割合に新しい方式で はありますが、近年にあっては、「 同列同方向 = 同じ列の速記文字は同じ方 向に書く 」 の基礎符号体系を持つ単画派の方式として画期的な 「 V式速記法 」 の登場があります。

 「 同列同方向 」 という発想はまた、「 コロンブスの卵 」 のようなところ があります。

 多くの日本語速記法で最低限、ほぼ間違いなく使われているであろう 「 5方 向の線 」 を、日本語の五十音における 「 ア列 〜 オ列 」 の 「 5列 」 の 各音に無駄なく、整合性をもって配当しています。

 また、このことによる恩恵は、速記文字を読み返す際に有効にあらわれてもき ます。

 「 角度の隣り合う線同士 」 は 「 類似線 」 とも言えますが、V式では 「 角度の隣り合う列 」 はそのまま 「 類似音 」 ( 類似音列 ) とも言える 列同士となるよう、「 5方向の線 」 が配分、設定されているのです。

 「 類似音列 」 同士が 「 類似線 」 となっているとも言える状態にあるた め、書線が乱れた場合でも判読を容易にしやすい傾向を与えるのです。

 さらに言えば、V式では、それまでの日本語速記法のエキス、エッセンスとい ったものを汲んだ上で、要領よくもシンプルにまとめられているとともに、速記 符号の運用面でのルール、決まり事なども論理的、統一的、かつ整合性の高いも のとなっているのです。