田鎖76年式速記法の特殊性とその味わい深さ


 さて、田鎖76年式の話に戻りますが、「 頭部フック 」 「 尾部フック 」 の両者が基礎符号に存在したり、「 黒点 」 の使用や 「 略字組織基準 」 の 存在等々、実に興味をそそられるもので満ちています。

 こういったことに比例してか、その書かれる速記文字の雰囲気も、これまた独 特ですね。

 「 無機質 」 な感じならぬ 「 有機質 」 な感じといったふうにも私自身は かねがね感じております。 ( ・・・ もちろん他の速記方式が 「 無機質 」 だなどと言っておるのでは決してありません。)

 その 「 有機質 」 ぶりは、田鎖綱紀氏 〜 若林玵蔵等へと引き継がれていっ た田鎖系の 「 有機質 」 ぶりとは全く異なるかのような様相です。

 例えが変なのかもしれませんが、略字の中でも特に活用語に関しては、その活 用の変化のもとになっている 「 基本形 」 があたかも意味を持った 「 表意文 字 」 であるかのごとく存在している感が、田鎖76年式にあっては特に強いよ うに思われてならないのですね。

 他の速記方式でも、いわゆる 「 略字 」 とか 「 略符号 」 とか 「 省略文 字、省略符号 」 などと呼ばれているものの中の多くは、それ自体が単体で、言 ってみれば結果的には 「 意味を帯びた表意文字と同等 」 のような存在である 場合が多いのですが。

 もとは速記の 「 ソの字 」 も知らぬ ( 当然なのですが ) 田鎖綱紀氏が、 欧米の速記法、その中でもアメリカのグラハム式あたりを母体として半ば翻案し たようなところから出発した ・・・ いわば 「 ゼロ 」 から出発した 「 田鎖 の研究の炎の受け渡し 」 とでもいったものが、このような形で3代目に当たる 孫の源一氏にまで、連綿とつながって行なわれていること自体に、私は大いなる 興味を抱くものです。

 そしてまた、日本の田鎖家から出たところの符号でありながら、どこか 「 欧 米的な匂い 」 を感ずるのは私だけでしょうか !?