速記講座【19】 漢字音

 さて、皆さんは「講座【18】 長イ音」の速記文字の例題を見て、何か気がつ きませんでしたか。

 そうなんです。「ア列長音」の例がなかったんですね。「アー・カー・サー・ ター・ナー……」などです。

 それと「長イ音」というふうに「イ」がカタカナでしたが、これにも何か意味 があるんでしょうか。

 これは日本語を形づくる漢字、その音読みの漢字音の頻度に関係してくるんで す。漢字音の2音目に来る音は特定の音になるんです。「ャ・ュ・ョ」のつく拗 音も1音と考えると、第2音は「ン・イ・ウ・キ・ク・チ・ツ・ッ」の8音のう ちの1つに限られるんです。

 そのうち「イ・ウ」は多くの場合、長音としてあらわされています。例えば 「クウ・ケイ・コウ」とか「スウ・セイ・ソウ」とか「ツウ・テイ・トウ」です が、実際の発音は「クー・ケー・コー」「スー・セー・ソー」「ツー・テー・ トー」ですね。つまり「ウ・エ・オ列」には素直に長音がそのまま漢字の音読み で出てきます。

 そして、「イ列」は漢字の音読みにはありませんが、「新しい・聞いて・引い た・用いる」とかで使われます。

 問題は「ア列」です。「ああ・まあ・さあ……」とかの感嘆詞で出てきますが、 数は少ないようです。ところが、漢字音では「ア列」の次には「イ」音が非常に たくさん組織立って出てくるんです。「アイ・カイ・サイ・タイ・ナイ・ハイ・ マイ・ヤイ・ライ・ワイ」というふうに、ほとんどが漢字の音読みとして出てき ます。

 漢字というと、日本語の普通名詞は漢字熟語でできていることが非常に多いわ けですから、1つ1つの漢字が簡単に書きあらわせれば、それだけ楽に速記がで きるということになりますね。

 それでは、いっそのこと漢字音で出てこない「ア列長音」と、よく出てくる 「ア列+イ」とを交換したらいいのではということになったんですよ。そうする と、「長音」の書き方と「イ音」の書き方が1つにまとまって、覚える速記法則 が一つ減って簡単になるわけですね。

 以上、「どうしてこうなるの」と、疑問を持つと前に進めないという方のため に解説しましたが、要するに「ア列」以外は、線を流すと長音に、「ア列」だけ は「ア列+イ」という符号になるということですね。それが日本語の速記として は効率的だというわけです。

 ここでは余り深刻に考え込まないで、前へ進んでくださいね。使ってみれば便 利だということがだんだんわかってきますから。





 わかりやすいように流した位置に点を打っています。この点は実際には書かな くてもいいんです。次の速記文字を書く位置だと考えてください。