大正3年5月10日の大阪毎日新聞に、「新案出の速記術大学生の発明」として下記 の記事が掲載されました。


 新案出の速記術、大学生の発明

 京都帝国大学理工科大学の土木科一年生、長崎県長崎市本大工町中根正親 (25)は、三高在学中よりの苦学生にて、今は聖護院町上畑酒商、細川初太 郎の二階に、ビールの空箱を本棚兼卓子(テーブル)にサイダーの空箱に腰 をかけて住まひ居れり。

 同人は、目今、日本に行はるる各様式の速記術を研究し、なほ改良の余地 ありと認め、西洋速記術の祖ピットマンの式を日本風に応用することを案出 し、実地に応用して好結果を得たれば、山本京大学生監(*学生部長に当たる。 山本良吉)聖護院予備学校主辻本光楠氏の賛助を得、九月頃より予備学校内 に速記学校を設立すべく、目下準備中なり。此の中根式の速記術は、先年、 武田千代三郎氏が発明せる単画式に一歩を進め、且つ、多大の改良を加へし ものにして、其特長中の主要なる一、二は

(一)
音(おん)の類似せるものには類似せる線を避け、類音の文字の混 同せざるやう、安全なる字体を用ふる事。(武田千代三郎氏の式には、ピッ トマンに許されざる線を用ひあり、不便少なからず、此線は欧州にては、既 に六十年前より、速記用線として用ひざる事となれり。)

(二)
漢字を音によりて大別すれば、「湖」「他」の如き一音のものも、及 び「海」「突」の如き二音のものに大体区別する事を得。而して二音のもの の語尾は、大体、インツクキの五音より成れり。されば中根式に於いては、 此インツクキ中の一音が語尾となる漢字(音)の書き方を簡単にせり。語尾 が、インツクキの音より成る事は、氏の発見なり。而して、此インツクキの 語尾を有する漢字を書き現はす時は、語尾の頭部に書く。(即ち、逆に書く。) 日本にて行はるるガントレット式中、「クチシ」の語尾を現はす時、此逆 書法を用ふれども、中根式にては、全部の漢字に之を応用す。

(三)
右の結果として、助字の書き方を簡略にする事を得。

(四)
ラ行、サ行、タ行、カ行に於いて略記法を用ふ。 其他特色と認むべきもの少なからず。漢字にして二音より成るものが、二 字重なる場合、即ち、「愛国」「大学」「新聞」の如きものの略記法は、京都 の速記者中、既に此式を応用しつつあるものありと。

以上が大阪毎日新聞に掲載された記事ですが、漢字を新字体に直しました。

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 平成26年5月10日は中根式が発表されて満100周年を迎えました。

 我が国の速記界は平成26年10月28日に満132年を迎えますが、その中で中根式は100 年の歴史があり、現在でも指導が行われている速記方式です。

 兼子次生さんから、「中 根正親先生直筆ノート」を 提供していただきましたの で、当サイトでは中根式速 記発表100周年を記念して、 PDFファイルで掲載いた します。中根速記学校理事 長・中根康雄先生に掲載許 可をいただいております。

 中根式創案当初の速記法 則体系を知るための貴重な 資料です。


 このノートは、中根正親 先生が10分間に1500字を練 習されたものですが、書か れた年代は中根式発表前後 のものと推定しておりま す。速記文字と反訳文を照 合しましたが、法則的に確 定していなかった部分もあ ります。



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