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速記方式学入門

 平成14年10月に速記発表120周年の記念行事が行われました。速記の歴史を振 り返る意味も含めてわかりやすいように対談形式でまとめてみました。

速水 速記には、複画派、折衷派、単画派とかいろいろありますね。

 速記方式の基礎について簡単に説明しましょう。

速記方式を大きく分類すると、符号式、文字式、印字式となります。符号式速 記とは速記用の特殊な符号(簡単な記号)で構成をされており、符号式には、単 画派、折衷派、複画派、草書派があります。現在、符号式では折衷派と単画派が 主流を占めております。

 印字式では、ソクタイプ系のステンチュラが主力になっております。

 複画派……50音のうちア行とア列が単線である以外は、すべて複線が使われて おります。例外として、ア行とウ列が単線である以外はすべて複線が使われてい る方式もあります。

 折衷派……複画派におけるエ列、オ列を単純化したものです。つまりオ列をア 列の倍線とし単純化を図ったものであり、折衷派には複画派に近いものと、単画 派に近いものがあります。

 単画派……折衷派におけるイ列、ウ列、エ列を単純化したものです。ア列の方 向を変 えたり、濃線化してイ列としたり、その倍線をエ列とします。ア列の半 線をウ列としています。

 草書派……速字の運筆を滑らかにするために、ローマ字の綴りを利用しており、 複画派と似ておりますが別なものです。斜線派とも言います。

なお前に上げた折衷派は、複画派と単画派の中間をいくものですが、「複画派 と単画派の長をとり、短を補って」できたものではありません。初めに複画派と 単画派があって、その中間的存在として折衷派があらわれたのではなく、複画派 から単画派への移行への過渡的存在です。

また、基本文字のみで複画派、折衷派、単画派と分類をすることには問題があ りますが、速記は最終符号体系において、速記文字の画数がいかに少なくなった かということが重要なことです。ここではあえて分類上の参考として複画派・折 衷派・単画派という言葉を使用しました。

 文字式……カナ文字にいろいろと工夫を加えてスピードを出そうとしたもので あり、別名をカナ派とも言います。

 1.カナ文字を崩した方式。

 2.カナ文字を応用した方式。

 3.カナ文字の一部分を利用した方式。

 印字式……速記用のタイプであり、通称「ソクタイプ」と呼ばれているもので あり、裁判所で使用をされております。最近では、電子化をされた「はやとく ん」とか「ステンチュラ」を使用しております。裁判所以外でも使用されており ます。

 平成3年に早稲田速記教育研究所が速記用のワープロ「ステノワード」を開発 し、最近では、パソコンにつないで「スピードワープロ」として実用化しており ます。

 速記方式を分類しますと、次のようになります。

速水 現在指導をされている方式はどのぐらいありますか。

石村式、カナ式、熊崎式、小谷式、参議院式、衆議院式、ステンチ ュラ、スピードワープロ、中根式、長商式、日速研式、森式(現代国語表象速記 法)、山根式、早稲田式などがあります。

 現在、山根式は「大阪山根速記学校」が廃校をされましたので、関西大学速記 部でしか指導をされておりません。

速水 ところで、速記方式数はどのぐらいあるんですか。

我が国の速記方式の数は何方式ぐらいあるかと聞かれて、大体の数 字を答えることができる人はどのぐらいいるのでしょうか。

まず、これには3つの意味が込められております。

 1.現在指導されている方式数。

 2.現在使用されている方式数。

 3.明治15年に田鎖式が発表されてから今日に至るまでの方式数。

ここで取り上げるのは、もちろん3番目の方式数です。まず各方式のテキスト を調べると、ほとんどのテキストについては、はっきりした数は書かれておりま せん。つまり現在残っている方式数とか、あるいは主な方式ぐらいしか書かれて おりません。

昭和40年発行の田鎖76年式「速記の完全独習」(田鎖源一著)では約70。

昭和42年中央大学速記研究会発行の「早稲田式速記詳解」(吉川寿亮著)では8 0余り。

昭和48年発行の石村式「石村式速記講座」(石村善左著)では約80種。

昭和48年の早稲田式通信教育のテキスト「早稲田式速記講座」では約80。(※平 成6年2月版のテキストでも同じ)

昭和50年発行の小谷式「日本語速記法SVSD50」(小谷征勝著)では100を超 える。

と書かれております。

では、実際には何方式あるのかということについて考えてみましょう。この方 式数は人によって方式として認める基準が異なっております。

1.速記実務者が出なかった方式。

2.実用化をされなかった方式。

3.あくまでも机上の空論として終わった方式。

4.速記方式としてはインチキくさい方式。

5.母式と基本文字は同一であるが縮記法、略記法が異質の方式。

6.実用化はされたが後継者のいない方式(創案者自身は使用をしたが、弟子 に指導をしていない)。

などが考えられますが、これらを一応速記方式として認めるか否かで方式数が異 なってきます。

 私は創案者としては、速記として考案をしたのだから、1方式として数えては どうかと考えております。数年の月日をかけて研究をした人もおります。

また1人の人が新○○式というように2つ以上の方式を発表しておりますし、 あるいは、1カ所の教授所で何年か置きに基本文字や省略体系を変えているとこ ろもあります。そういうことを考えて、新○○式とか、○○式(○○年型)とい うものを1方式として認めるとかなりの数になりますね。

 まだ世の中には発表をされていない方式もあると思われます。

速水 まだ世の中に出ていない方式もありますか。

 あると思いますね。

 中には方式名がわかっても、その速記文字がわからない方式がかなりあります。

速水 「日本速記者名鑑」日本速記百年記念会発行(昭和58年1月31日) に掲載されている速記方式数は61方式で、早稲田式、中根式、ソクタイプ、参議 院式、衆議院式、山根式、熊崎式、佐竹式、田鎖式、佃式、日速研式、国字式、 木村式、米田式、長商式、カナ式、岩村式、超中根式、石村式、毛利式、森山式、 松崎式、松原式、三浦式、荒浪式、小谷式、深堀式、酒井董式、富士式、イトウ 式、相賀式、若林式、三村式、安田式(貴族院式)、牧式、毎日式、カナモジカイ 式、ユニ式(日速研式)、泉式、川村式、ガントレット式、水本(元)式、長谷川式 (衆議院式)、森田式(衆議院式)、表象法(中根式表象法)、川守田式、新熊崎式、 所沢式、寺谷式、大田式、新秀式、中谷式、酒井式、桜井式、森式、コクサイ式、 TIMACE(タイメイス)式、ひらがな式、各式総合、深堀・カナ宇宙式、貴族 院式などがありましたね。

※「日本速記者名鑑」には“オンタイプ”とありますが、速記方式として認めが たいので外しました。“録音タイプ”の略称と判断しました。

 現在では、もっと少ないでしょうね。

 それでは、田鎖式から現在までの「速記方式史概論」に入りましょう。

 日本の速記は、明治15年に田鎖綱紀によって発表されたのが最初であると言わ れていますが、それ以前にも欧文速記の研究をした人もおります。

   

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